2023/10/10 13:50
悪いことといいことのつながり
数週間前、冷蔵庫をあけようとしたとき一瞬のことで後ろ向きに倒れ、じたばたしながら自力で起き上がりました。なんともない、なんともないともないと自分に納得させながら右腕のかすり傷にサロンパスを貼ったりして過ごしましたが、数日後頭のこぶに気づきレントゲンを撮ってもらいました。幸い頭も背骨も無事でしたが、なんとなく鬱々としていました。そんなことがあってかねてゆっくり少しづつと考えていた身辺整理の第一段階にちよっと拍車をかけようと思いました。六畳の畳部屋の畳替えです。身辺整理なのに畳替え? 次女はそう思ったようでしたが、私は自分の最後はまっさらの畳の上でシンプルに伸びのびと過ごしたいと思っていました。でもよく言われる断捨離とかで何もかもなくなった生活では侘しいので、本当に無駄な物だけを処分し後は死後に託したい、なるべく最後まで今のままの環境で暮らしたい、そうも願っています。そんな中早速畳替えから始まりました。いまどき人気のある畳屋さんはとても多忙のようです。でもその中で明後日だけ空いている、いまから現場を見たり打ち合わせに伺ってもいいかというあわただしいことになりました。15分後50代そこそこのご主人が見えて早速打ち合わせが始まり、朝8時に畳を受け取りにきて、午後3時に納品ということ。たった7時間の仕事なのかと驚きました。インターネットで探したその畳屋さんは、老舗の信用高い様子です。しかも「80代の親父と一緒に仕事をしていて、頭が上がりません」という愉快な話でした。コーヒーでも入れようとしても、あんまり遅くなると叱られるのでとそこそこに帰って行かれました。ここから私のささやかな人生勉強がはじまります。
翌々日親子で見えた時あらためて驚いたのは、おやじさんという方の力強さでした。笑顔一つみせず、まるで息子をリードしているような様子です。無言で畳をひょいと持ち上げ、エレベータのない階段をすたすたと上がり降りする、かくしゃくたる姿には、古武士の風格と職人の昔堅気をはじめてみたように思いました。なるほどこれでは頭があがらないのも無理ないでしよう。私が「失礼ですがお父様ですか」と聞くとはじめてマスクをはずして「はい。奥さんは私より上ですな」そういって笑われました。「お茶でも」というと「お茶はいいです」と言ってさっさと降りてしまわれました。そして息子さんは慌ててあとを追っていかれました。午前8時に畳を預り、午後3時に納品するという約束はきちんと守られました。新しい畳の感触に酔い、まずテレビでもみてみようと、スイッチをいれてもなぜか点灯しません。あわてて古いマニュアルを取り出して、いろいろやってみるけれどどうにもなりません。隣の部屋の台所に据えてある小型のテレビは、このテレビと連動しているのでBSをみることができません。夕食の支度をすることも忘れて、次女と電話連絡をしあったりした結果明日テレビを買った電気やMさんに救援の電話をしてみることにしました。ここから私の第二幕がはじまります。
翌日他所の仕事の帰りに寄ってくれたMさん。久しぶりを喜んでくれました。ちょっと電源が入らない気楽な気持ちで寄ってくれたMさん。いつもここのコーヒーはおいしかったなあと半ばそんな楽しみもあったのかもしれません。ところがあけてみると『アンテナの
接触を確認してください』と画面コメントが出てからは大変なことになってしまいました。Mさんの二台のテレビの間での格闘がはじまります。Mさんは思ったより足腰が弱っていました。配線の確認のために椅子に上がって仕事をする間、私ははらはらとしているばかり。数日前転倒したばかりの私が思わず椅子を支えに行くと、「危ないからあっちへ行って」と怒鳴ります。これも職人魂の発露というものなのでしょうか。漸く両方のテレビが回復したようで私達はコーヒーを飲みながら思い出話とか雑談をした後、ほっとしたMさんを送り出しました。それからどれほどかたってから、私がワクワクして大型のテレビのスイッチをいれた時、またも不具合に出くわしてしまったのです。夜も相当遅くなっていましたが、次女に『明日メーカーさんに出張修理を依頼する』と伝えました。
翌朝まだ早い時間、次女から電話がありました。「お母さんの気持ちはよくわかるけれどあれからいろいろ調べてみたら、近くのN町に腕のいいと評判の電気屋さんがあった。メーカーさんに頼む前に一応問い合わせてみたい。今日は土曜日だけどインターネットでみたら“営業中”とあったので。」そして数分後、「明日午前十時に伺います」と返事があったということでした。それから私の第三幕ということになりました。
今日は日曜日。次女は早くからきて立ち会ってくれました。E電気店とよびます。Eさんは私が想像していたより遥かに年配でした。しかししっかりした感じです。昨日依頼したMさんをなぜ再依頼されなかったのですかと気にされるので、名前は伏せて「足がご不自由で、心配性の私がみるに堪えなかった」と答えると、笑いながら「この業界もみんな段々年取ってきて大変です」と言っておられました。その言葉に私はハッと胸を打たれました。Eさんは“腕のいい電気屋さん”と評判だけあって、私達も見とれるような仕事ぶりでした。全く素人の私でもなるほどと納得するような気がしました。途中、二つのテレビをこの際分離することについて私が「出来ればぜひ」と希望を言うと、早速今日持ってきた部品をしらべはじめました。あいにく今は持ち合わせがありませんでした。するとすぐ仲間の店に電話してご自分でとりに行ってくださったのです。こうして二つのテレビは無事分離され、心なしか独立した小型のテレビは色鮮やか、音声もしっかりしたようで、とても嬉しそうに私には見えました。私は心から感激しました。そして感謝しました。
次女が「お一人でなさっているのですか」とたずねると「一人ですが仲間がいます。いま人を雇うことはとても難しく、こうして皆で助け合っていくほかありません」ということでした。イントネーションからもしや九州の方ではという話題から私達三人とも九州人だということでおおいにもりあがりました。楽しいコーヒータイムでした。そして「これから二件行かなくてはなりません。オジサンはいそがしくて」とあわただしく次へ行かれました。
私にとってはこの三日間はとても忙しい日々でした。疲れもしました。けれどこれが実社会だと実感しました。個人事業者の実態も濃縮された形でみることができました。請求書の金額をみると、予想に反して低価格過ぎると実感しました。これでは申訳がないと正直思いました。どうしてこんなにゆとりなく働かなくてはならないのだろう。日本は。そうもつくづく感じました。やはり最後に願うのは、政治はもっと落ち着いて、ゆとりを持って、国民をみてほしいということに尽きます。
それにしてもこうしてひとつのちいさいことが次々とつながっていく。畳やさん。M電気屋さん。E電気屋さん。それぞれの方からそれぞれのものを頂きました。金銭以外のものを。絆はやはり大切ですね。 2023年10月10日