2023/07/21 14:18

華の時代もありました

図書館はいつ行っても、その時々にとってこの上ない巡り合いを与えてくれるとつくづく思います。沢木耕太郎著『危機の宰相』(2006410日発行)何気なく目について手にとりました。今から17年前の発行になります。

時代はまさに1960年代、不遇の大蔵官僚であった池田勇人氏の総理大臣実現にいたる経緯と4年間の執政の期間が、つまびらかに躍るように描かれていて私の心は鷲掴みにされました。1960年台から1970年台にかけて、日本が復興と成長に湧いたまさに再び帰り来ぬ青春時代だったのかもしれません。

 

池田氏は『所得倍増計画』という大キャッチフレーズを打ち立て、国民の心を固く掴んでおられたのでしょう。関わり合った人々の人間関係は目もくらむばかり。特に大蔵エリート官僚たちは、その地位とプライドをここぞとばかりに自覚し、猛烈な勉強をしている様子。文系の学者方の錚々たる発言ぶり。メディアの活躍ぶり。そうした中に政治家たちは激烈な権力争いをしながら、池田氏を中心とした自民党『宏池会』は着々と理論構成で地位を築く様子が既にみられます。

 

『所得倍増計画』という国民の切なる夢と、政治の目的が一体となったとき、国はこんなにも一体となって燃えるものなのか。50年も前のノンフィクションでありながら、このように胸を燃やせる書籍、名作歴史書としても大切にしたいと心から思います。

 

私もこの時代にはほのかな記憶があります。当時中小企業の経営者の方々と話をするとき、『事業の利益率ってどのくらいがめあてでしょうか』とよく話題になりました。『そうですね。銀行に定期預金しておけば、8%は利子がもらえるのだから、それより少しでも大きくなくては商売のやり甲斐がないですね』そんなやりとりでした。

そして私の友人夫婦は、毎年定期預金の利息で、旅行するのが何より楽しみだということでした。いまはそんな『利子所得』はどこへ行ってしまったのでしょうか。

 

なんとかもう一度、日本のメッセージをうちたてられないものでしょうか。『新・所得倍増計画』でもいいではありませんか。

切に切に願います。

20230721