2023/02/12 20:52

財政赤字の神話 ステファニー・ケルトン』を読んで

****************************************

 読後感

『財政赤字の神話 ステファニー・ケルトン』の書籍をようやく読み終わりました。

章順に2度づつ読み、ノートに概要や要所などを抜き書きし、最後にざっと拾い読みをしました。趣旨は大方理解し得たと思います。最初に読後感想を述べさせて頂きます

ステファニー・ケルトンさんのすばらしさに圧倒されました。経済学の膨大な全面を

余すところなく展開して浮き彫りにする力には、深い知力、思考力、学識、交友力、責任感等が余すところなく発露されています。経済という掴みにくいイメージを、はじめて可視化されたように捉えることができました。女性ならではの真面目さ、誠実さを溢れるように感じました。我が国の歴代首相からは、この国を、どういう理想をもって、どういう国にしたい、と、聞くことがありません。そんな不満を常に持っていましたので、特に強く感じました。

◉これだけの議論が活発にできるアメリカの環境は羨ましく感じました。

本書の第七章に『本当に解決すべき赤字』という項目があり、

➀質の高い雇用の不足  ➁貯蓄の不足 ➂医療の不足 ④教育の不足 

⑤インフラの不足  ⑥気候変動問題への取組みの不足 ➆民主主義の不足 

となっていますが、そのまま我が国にすっぽり当てはまると感じました。もしかしたら

世界共通のテーマなのかもしれません。

本書は理想的な経済への願望が述べられていると感じました。理想的な経済理論というべきか。

私は常に複式簿記を経済の基本としてきましたが、国と市民という複式関係、又世界的視点が希薄だったこと、つまり自分の視野の狭さを反省しました。

最後に私は『貨幣論』について正しく勉強をしたことがありません。そこで100%本書を理解できているとは言えません。今後もう少し頑張って勉強をします。

****************************************

⑵ MMTへの疑問

本書の解説の頁にわかりやすく書いてあるのでそこか抜粋します。

『MMTは、一般には、「政府の借金はインフレをもたらさない限り問題ではない」という主張をする理論として知られており、それはまさに本書の主要な論点でもある。

この理論をより正確に言い直すと、「自国通貨を持つ国にとって、政府支出が過剰かどうかを判断するためのバロメータは、赤字国債の残高ではなくインフレの程度である」というようになる。 アメリカ、イギリス、日本はそれぞれ、ドル、ポンド、円といった自国通貨を持つ。こういう国々の政府・中央銀行は、いわば通貨の製造者であり、必要な資金を自ら作り出すことができる。それゆえ、資金がつきることはないし、そもそも借金をする必要がない。(以下略します)』

 私の疑問はこのテーマが「自国通貨を持つ国にとって」というところが出発点であることです。自国通貨権を持つということは、いわば人為的僥倖のチャンスから生まれるものであって、既に特権が発生しています。簡単にいえば既に大きい格差が発生している。誰もが簡単に取得できない特権を推奨するのは,ますます世界の格差を拡大することにはなりませんか? それが納得できかねます。

****************************************

⑶我が国の対応について

本書の日本版序文版には「財政赤字」こそがコロナショックを脱する唯一の道であると書いてありますし、また文中には日本政府は主権通貨()の発行者であるため、必要な資金は日銀が製造する。無尽蔵である。資金が枯渇することはあり得ない。と書いてあります。推測するに、この部分を政府にとって非常に都合のいい部分と捉え、飛びついてその後の財政政策に使ったのではないか。だから国会でも、選挙運動でも、財政の問題に触れる議員は与野党見当たらず、私はどんなに不思議、また不信感に悩まされていたことか。今思い当たります。私が不安に思うのは、この国の政治には『議論する』ということを良しとする慣習が乏しくつまり思考停止に陥ってしまいがちということです。唯一のMMT実験国となった我が国の現状はどうでしょうか。前回のブログと重複しますが、本書の日本版序文には、本当の制約という1項をわざわざ設けて、『……インフレーションは重大な脅威だ』と述べている部分もあります。MMTは、資金が枯渇することはあり得ない。と言い切っている反面、異常なインフレーションだけは例外だと言っているのです。

その異常なインフレーションに我が国はいま陥っているのではないかと思うのです。

少なくともこういう結果が出た現在、日本でMMTの導入は考えられないと私は思います。20230211日  川口 翠