2022/12/24 16:59
ワッハッハッの天国日和
今日は待ちに待った親友Mさんの来宅日。昨夜からこどものようにワクワクです。
私よりも一周りは若い女性歌人。このブログにも何回か登場しました。山梨県の米も耕作
できないという寒村に祖父母、両親、兄3人、姉3人の末っ子。貧しかったけれど兄姉は
とても仲よく両親を助けてよく働かれ、Mさんは家族から特別に可愛いがられたらしく。
溢れる大自然に包まれ伸びのびと育ちながら、兄姉のなかでたった一人、大学に進むとい
う勇気の人でもあったのでしょう。私とは、あるエッセイの会で巡りあい、親交がはじま
りました。一人の女性が一歩一歩大地を踏みしめるように、揺るがないあしどりで成長な
さる様子には、信頼と感動と羨望とガチャガチャ混じった気持ちで大好きになりました。
現在は短歌の世界でも歌人と尊敬され、今年は”石榴の花”という名実ともに素晴らしい
短歌集を出版されました。
12時きっかりチャイムが鳴りました。「まあ暫くでございます。なんだかいい匂いが
しますこと」これがご挨拶。「今日はね、失礼だけどお台所で食べていただくのよ。餃子
の大きくておいしそうなのがみつかったので、焼き立ての熱々で沢山食べたいなあなんて
思って。ごはんはね、牛肉とゴボーの混ぜご飯。たった今できあがったばかり。出来立て
の熱々ってなかなか食べられないから」「わあうれしい。餃子大好き」そんな会話が飛び
かいます。ホットプレートもあたたまり、大きな餃子が15並べられます。だんだん蒸し
焼きの湯気が部屋いっぱいにひろがり、「おいしそうなぎょうざだこと。うれしい、うれ
しい」と彼女のこえ。「熱いのが取り柄。はやくはやく」とお茶も後回しで。ふうふう言
いながら食べる間に、とっておいた上等の冷酒。大きめの盃になみなみとついでカンパイ
しながら「こんな昼日中から、いいのかしら。まあいいか。幸せなこと」と陶然たる気分。
相手がいてくれてお酒を吞むうれしさ。格別です。私たちは何度大きな声でワッハッハッ
って笑ったことか。喋りながら、顔見合わせながら。ふと気がついて私は慌ててお釜の蓋
をあけました。ごはんと、牛肉とゴボーの具が一番おいしく混ざりあった頃。これを逃
がしては、折角の主婦のおもてなしも甲斐なしとばかりに。大きいお茶碗にこんもりと
ついだごはん。青々としたクレソンの束がガラスのおさらにのせてあります。「葉っぱ
だけ自分でちぎってごはんにまぜてね」「クレソンがごはんとよくマッチしています。
おいしい。クレソンは必要なんですね」言いながらやがてMさんの目が何だか少しつぶ
れそうにみえてきました。
丸テーブルの部屋に移った私たちはコーヒーと、「Mさんと一緒に召し上がれ」と娘が
差し入れてくれたワッフルケーキを前にずいぶん沢山の話をしました。Mさんの短歌の話。
やはり文章を書くということの話。次第に老いていくこれからの話。その中で親と子ども
の話になった時、Mさんからはじめてこんな話を聞きました。
「翠さん。私は、親は子供に迷惑をかけてもいいと思います。実は子どももそれを喜ん
でいるのですよ。実は私は若い頃、好きな人がいて結婚をしたいと思いました。けれど母
は反対でした。理由は相手が関西の人だからということでした。関東の人なら近いから何
かあったら、すぐ呼び寄せられるという理由でした。そして私のすぐ上の兄が独身でいた
の、それが気がかりで、何かあったら私に託そうと考えていたからでした。私は母のいう
ことを全部受け入れました。私は母の反対を押し切ってまで、自分の意見を通そうとは思
わなかったし、兄のことにしても納得しました。それを後悔したことは一度もありません。
それほど母が大好きだったのです。そのご母が病気で倒れ、3人の娘が交代で介抱に当た
ったのですが、私は自分の順番が嬉しかったのです。母の介抱をするのが嬉しかった。
母は、自分は精一杯子どもを育てた。だから子どもが親の言うことを聞くのはあたり前。
そういう信念があったので、自分の用事があれば遠慮なく子どもを呼びつけていました。
私はそんな母に精一杯尽くしてきた自信があるので、親に対して思い残すことはないの
です」
私は粛然とした気持ちになりました。はっとした気持ちでした。何か胸に突きつけら
れたような。………私ならなんと考えるだろうか……?? そして難しい時代にある若い
人たちはどう考えるのだろうか?
私はあらためて、Mさんの虚飾のない堅実さ、羨ましい生き方の基底が、ここにある
ように理解しました。10人のご家族の愛情こそMさんの宝物なのだと。
いつのまにか4時になっていました。まあ4時間も喋り、聞き、笑い、あっという間。
日頃はもの忘れも加えて、ためらいがちな私の唇がよくもまあ、こんなに滑り続けたこと。
最後にMさんの挨拶です。「翠さん、元気で暮らすための5つの法則です。
➀毎日小さい発見をする
➁大きい声でワッハッハッと笑う
➂一日1000文字は書く(400字原稿用紙2枚半位)
④一日1000文字以上は読む(新聞でも)
⑤歩く
「最後の⑤を除いては私は全部合格です。歩くのはちょっとむずかしいなあ」
「大丈夫。翠さんは家事にいそしんでいて一日中家の中をうろうろと歩いているから」
分かれる淋しさよりも、楽しかった高揚が私の溢れるエネルギーになります。
それにしても私の実感です。ワッハッハッの天国日和。こんな日がせめて、数か月に一日で
もあったら、高齢者の医療費も大分節約されるのではないだろうかと。
2022年12月24日 川口 翠