2022/10/28 21:22

万感胸に溢れて

故安倍信三元首相の追悼演説に、立憲民主党の最高顧問である野田元首相が決まったのは

良識的な選択だと感じました。私は野田元首相の品格を信じていて、解散で退陣された

ときは『とても残念』という気持ちがありました。20221025日追悼演説は国会

冒頭で行われました。自分の感想を生々しく書くのは、私の力では非常に難しく、ご発言

の要旨を抜粋させて頂きます。

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20069月大きな期待を受けて第一次安倍内閣が誕生したが、持病を悪化させたあなた

は退陣のやむなきに至った。しかしそこで諦めてしまうことはなく、再チャレンジの結果、

2012年再び自民党総裁となった安倍氏と、当時首相の職にあった自分とは、国会で対峙

する。あなたとの主戦場は、本会議場や予算委員会の第1委員室だった。少しでも隙を

見せれば容赦なく切りつけられる。それは一対一の「果たし合いの場所」だった。

鮮烈な印象を残すのは20121114日の党首討論だった。私は議員定数と議員歳

費の削減を条件に、衆院の解散期日を明言した。あなたの少し驚いたような表情、その

後の丁々発止。決して忘れることはできない。与党と野党の党首同士が、互いの持てる

すべてを賭けた真剣勝負であったからだ。

あなたが後任の首相になってから、一度だけ首相公邸でひそかに会ったことがあった。

2017120日の夜。2人きりで、天皇陛下の生前退位に向けた環境整備について

語らった。お互いの立場は大きく異なったが、議論は次第に真剣な熱を帯びた。「国論

を二分することのないよう、立法府の総意を作るべきだ」と意見が一致した。

国論か大きく分かれる重要課題は、政府だけで決めるのではなく、国会で各党が関与し

た形で協議を進める。皇室典範特例法へと大きく流れが変わる節目だった。

あなたとなら国を背負った経験をもつ者同士、天下国家のありようを腹蔵なく論じあっ

ていけるのではないか。立場の違いを乗り越え、どこかに一致点を見いだせるのでは

ないか。私は、そうした期待をずっと胸に秘めてきた。

再びこの議場で、あなたと言葉と言葉、魂と魂をぶつけ合い、火花散るような真剣勝負

を闘いたかった。長く国家のかじ取りに力を尽くしたあなたは、歴史の法廷に永遠に

立ち続けなくてはならない。安倍晋三とはいったい、何者であったか。国に残したもの

は何だったのか。私はあなたのことを問い続けたい。あなたが放った光も、その先に

伸びた影も、議場に集う同僚議員たちとともに言葉の限りを尽くして問い続けたい。

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野田元首相は、このほかにも、初めて国会議員の選挙に当選したのは同期だったこと。

そのとき安倍元首相は、華々しい脚光を浴びて、多くのマスコミなどに囲まれてこと。

羨ましいと思ったこと。

皇居で新旧首相交代の式の時、たった二人であったこと。まさに意気盛んな輝く新首相

と、苦しい失墜の自分とは、あまりにも厳しい格差があったこと。落ち込んだ私に対し、

安倍さんはいかに心温かであったか。「自分は5年で復帰した。あなたもそうなるよう、

是非期待しているから」と早口でまくしたてるように何度も言ってくれた。そんなこと

も披露していました。最後に、政治家の握るマイクには、人々の暮らしや、命がかかっ

ている。暴力にひるまず街頭に立つ勇気を持ち続け、民主主義の基である、自由な言論

を守り抜いていこうと議員一同に訴えていました。会場からは感動の拍手が鳴り響きま

した。

最後に野田元首相は、ご遺族の明恵夫人に向かって深く頭を下げていました。

明恵夫人は何度も涙を抑える場面が映りましたが、涙ながらに『ありがとうございました。

野田先生にお願いして本当に良かった。本人も喜んでいることでしょう』と言われた

そうです。

 

私は万感胸に溢れました。闘う政治家として、思いのすべてを語られたと思いました。

そして、このような政治家の言葉を聞いた胸には、希望という光が久しぶりに灯った

ような気がしました。


20221028日  川口 翠